●生ごみ処理機の主役は微生物であること●

生ごみ処理機という名前が良くないのか、洗濯機然とした外観のせいなのか、使用される方の中には、生ごみ処理機は生ごみを放り込んでおけば、あとは勝手に生ごみが分解処理されると思われがちです。

もちろん、メーカーとしては、できるだけ自動的に生ごみが分解処理されるように工夫を凝らすわけですが、洗濯機のように洗い物と洗剤を入れておけば、勝手に水が出て洗濯・すすぎ・脱水・乾燥までしてくれて時間がくれば、洗濯物を畳むだけの状態まで持っていけるのとは大違いです。
消滅型と呼ばれる生ごみ処理機の殆どの機種は微生物の分解力を利用して生ごみを液化分解するわけですから、機械の役割としては、微生物が活発に活動できる環境を作ってやる必要があります。

まずは、容量が適正かどうか。
わかり易い例を述べると、浄化槽を選定する場合、その施設を使用する人数により10人槽、20人槽という形で浄化槽の処理量が決定しますが、どのメーカーの商品でも、流入する有機物の量(〇〇人槽)が同一である限り、その有機物の分解に必要な微生物の量も同一であり、微生物を飼育する曝気槽の容量に大差なく、大体どのメーカーも似たサイズの容量となります。
ところが、生ごみ処理機の場合、同じ日量100kg処理の機種であってもメーカーによりボディーサイズがずいぶんと違います。 浄化槽の曝気槽に匹敵する微生物を飼育するスペースは菌床であり、それを保持する撹拌槽が同じ役目を担うわけですが、メーカーは違えども横軸の撹拌タイプであれば、左右の機器類やメンテスペースはほぼ同様なので、ボディーの寸法が微生物の量と推定して構いません。
したがって、
ボディー寸法の大小は、撹拌槽の容量=菌床の容量=確保できる微生物の量とみなせます。


おがくずのような微細な菌床を用いる場合、撹拌時に空気に触れにくく嫌気域になる部分があるため、好気性菌により仕事をさせるため有機物に対して多めの菌床を用意することになるのでボディーは大きめになります。
弊社を始め、ある程度の粒径の菌床を用いる場合、注目していただきたいのは
ゴミの量に対してどれだけ大きいボディサイズを準備できるか。言い換えれば有機物に対してどれだけの微生物量を確保できるかが生ごみの分解性能を左右することになります。

ボディが小さければ、それだけ少ない微生物が投入される生ゴミを担当することになります。そのため、分解しなければならない有機物の負担がおおきくなり(一般的に有機物負荷と呼んでます。)、同時に微生物と生ごみの接触時間(撹拌槽内の滞留時間)も少なくなるため、分解が不十分となり排水の濃度は高いものを出すことになります。
ボディーが小さいということは1日分に相当する生ゴミを保持する余裕がないので、早く生ごみを処理して翌日の生ごみの投入に備えなければならず、結果的に微生物処理時間が足りず、未消化のまま、ひどい場合、生の状態の生ごみが排水に混入していくことになり、結果的に排水の濃度が高くなったり、配管内で生ごみの固形分が腐敗して悪臭が発生するトラブルに見舞われます。
当然、負荷が高ければ浄化槽ならバルキング(微生物の汚泥が不調により膨化して沈殿槽で沈まなくなる現象)や過剰な余剰汚泥の発生が起きるわけで、それと同じようなトラブルが生ごみ処理機でも発生することになります。
実際の浄化槽トラブルも浄化槽の容量に対して、入ってくる有機物の量が多い場合、必ず、例外なく高負荷を原因としたトラブルが発生し、結果的に排水処理の水質が悪化しています。
これと同じことが、処理量に対して小さいボディーサイズの生ゴミ処理機では起こります。

微生物は嘘を付きませんし、騙すこともできません。
生ゴミを処理する微生物に特殊なものは存在しません。これも廃水処理と同様、活性汚泥法が確立され何10年も経過していますが、未だに特殊な微生物は存在せず、昔ながらの微生物が活用されているのは、無理のない飼育条件下で連続的に生息し続け累代飼育可能な微生物は数えるほどしかないからです。

生ゴミ処理の世界で、『特殊な微生物』というのは通用しないのです。
それは特殊な環境でしか生きられない微生物ならば、生ゴミ処理条件を特殊な環境にキープするしかないので、運転管理やランニングも難易度が上がってしまい、現場の担当者が本業の片手間で管理するのが困難になるわけです。
だから、生ゴミ処理の世界では、もともと生ゴミに付着しているような「どこにでもいる、ありふれた微生物」を主役に立てるしかないのです。

微生物の種類が自然淘汰の結果、どの処理方法でも生き残る種類が決まってくるならば、生ゴミの量に対して微生物の量=菌床の量=撹拌槽の量=ボディサイズは小さいより大きいに越したことはありません。
生ごみ処理機の世界ではコンパクト=進化・メリット、ではなくコンパクト=デメリットしかありません。
もちろん、ボディーが大型化していけば価格は高くなりますので、必要十分なボディサイズを見極めるのがメーカーのノウハウになると思います。

弊社では生ゴミ処理機を販売する際に、いきなり多くの処理量でラインナップを組んだわけではありません。製造して20年の間に、例えば170kg/D処理を実プラントで稼働させて数年間様子を見て次の大型機250kg/Dを販売し、実運転で数年後、問題がないのを確認し、350kg/D、500kg/Dというふうに機械を大型化させていきました。

弊社としては、この有機物負荷については、長年培ってきた廃水処理プラントの知識と経験を活かし、必要な微生物量を確保するため、十分なボディサイズ(菌床の量)を準備しております。
カタログなどでボディサイズを比較されるのもよいかと思います。

また、微生物の活動温度も重要なポイントです。 生ごみを分解する微生物は一定以上の温度をキープしてやらないと十分な活動を行うことが出来ず、微生物の分解に直接影響します。 活動を維持する撹拌槽内の温度はメーカーにより多少は違うと思われますが、最低でも30℃から40℃程度は維持する必要があるかと思われます。

これも各メーカーのカタログでヒーターの容量を比較され、メーカーの考え方を調べてみるのも良いと思います。
ちなみに。ホームセンターで最も売れている熱帯魚飼育セットは60センチ水槽ですが、この水槽を25度にキープするために必要なヒーター容量は200W程度です。 たった60リットルにも満たない水を25度にするため200Wを要するわけです。生ごみ処理機の場合、容量は60センチ水槽より遥かに大きく、この熱帯魚の水温よりも10℃以上高い温度をキープする必要があるわけで、上記のような小型のヒーターでは到底役不足であり、相応のヒーターを標準装備しないと適正な微生物の活動をキープすることができません。

湯沸かしポットに使用されるヒーターでも短時間で水温を揚げるため1200W程度を装備しているわけですから、ヒーターの容量は冬場の外気温で冷える生ゴミ処理機に対して必要十分な容量を確保しなければなりません。
尚。ウッドチップなどの菌床では、どうしても容量が大きくなるので、全体を暖めるためのヒーターの容量は、どうしても大型化する傾向にあります。
処理する生ごみの量が多ければ、投入直後に撹拌槽内の温度は一気に下がります。 したがって、一気に温度を復帰させるヒーターの余力が必要となります。
温度が1日に上下が激しいと分解微生物は十分な能力を発揮することが出来ません。

低下した撹拌槽内の温度を短時間で元に戻すためにヒーター容量は余裕が必要となります。
また、ヒーター容量が不足すると、底部パンチング周りに生ごみの油脂分が固形化し、石鹸のような塊となり、排水できなくなったり、配管内で塊が詰まるなどのトラブルも発生するので、その意味でも設備全体の保温は必要と言えます。
大きなヒーターを使用すると電気代が高くなるかといえば、そうではなく稼働時間が短時間で目標の温度に到達するので小さなヒーターを長時間使用するのと電気代は変わらないのを皆さんは経験済みかと思います。

1000gの水を1度上昇するための熱量は、大型のヒーターでも小型のヒーターでもヒーターの稼働時間×ヒーターのワット数の数値は同一となります。
そうなると小型のヒーターを付けてダラダラと水温を上げるうちに、外気温による温度低下してしまうため、更にヒーターの稼働時間が伸びるような
小型のヒーターを選ぶ選択肢はないわけです。

処理量に対して、どの程度の大きさのヒーターが装備されているか。これを比べるとメーカーの考え方が分かるのではないかと思います。

カタログを各社並べて処理量に対してヒーター容量がどうなのか比べてみてください。

微生物の活動には、栄養分と温度の他、酸素が必要です。 微生物の中には酸素がなくても活動可能な種類もありますが、多くは酸素を必要とする種類です。 消滅型の場合、ブロワーなどで強制的に酸素を送る必要はなく、したがって臭気が排気されることもありません。 撹拌により菌床に空気が混ざり、酸素を微生物に与えますが、活動させる微生物の性質上、あまり頻繁に撹拌は行いません。 稼働時間の80-90%は撹拌せず、菌床そのものをじっくり寝かせ、微生物に生ごみを分解させます。 ちょうど、お酒や味噌を作るため麹を育てるようなイメージでしょうか。 決して、ぐるぐると連続運転で撹拌し続けるものではありません。

菌床が固い場合、あまりぐるぐると撹拌させますと、生ごみがすり潰されて、底部のパンチング穴から微生物分解されない、ただの微細な生ごみとして固形分が排水される危険も高いと言えます、こうなると生ごみ処理機は微生物で分解する装置ではなく、ディスポーザーのように、単に生ごみを細かく砕いて排水する装置と一緒になってしまいます。
本来、ディスポーザーは国の法律により、直接下水道に排水してはいけません。 それだけ、生ごみを小さくして流すということが排水の濃度を高くするからです。
生ごみをそのまま流したりせず、じっくりと微生物で有機物分解させるためにも、
撹拌は連続ではなく、できるだけ撹拌せず、じっくりと寝かせてやることが、排水の濃度を低く維持することに繋がります。

このような、
撹拌時間や、排水の濃度について各メーカーの考え方を水質データを含めて、調べるのもよいかと思います。

生ごみの菌の種類については、上にも述べましたが、再度、簡単にまとめます。弊社は長年、廃水処理のプラント設計や施工を手がけてきましたが、この業界においても光合成細菌や特殊な土壌性バクテリアなどが排水のトラブルに有効だと何10年前から何10種類も市場に販売されましたが、一時的な特効薬として利用されたことはあっても、廃水処理のメインの菌として定着することはありませんでした。 特殊な菌ということは、育つ環境も特殊であり、一定の条件を満たさないと長生き(累代飼育)出来ないのです。 菌が育つ条件としては、栄養分の種類、pH、温度、酸素濃度などで、育つ菌種は異なります。 仮に同一の条件で育成可能な菌が何種類も居たとしても、お互いの菌同士の相性があり、競合し合う中で負けて死滅する菌も居ますし一大勢力として他の菌を圧倒して大繁殖する種類も居ます。 生ごみには数100種類の菌が付着していると言われますし、生ごみ処理機が置かれる自然環境も1000種類以上の菌が浮遊していると言われますが、結局、菌同士の競争に勝ち残った微生物のみが、生ごみ処理機の運転条件に適合して数種類だけが生ごみの分解の役に立つというのが現実です。

つまり特殊な菌を用いたところで、その有用な菌を連続的に生ごみ処理機の中で累代飼育することは困難であり、最終的には、ありふれた自然界に普通に存在する微生物が生ごみ処理機の中で活躍するようになります。 弊社も機械を稼働させるときに、スターターとして種菌を使用しますが、40数種の菌をブレンドしていますが、最終的に生き残り、生ごみの分解に役に立ち、累代飼育できるのは数種類に限られています。

生ごみ処理機の運転条件は、前述の酸素や温度などの条件は各メーカーの大差はないわけで、その結果、育つ微生物も大差ありません。 言い換えれば、上に書いたボディーサイズ(撹拌槽の容量)、ヒーター容量、酸素量なども似たようなものであれば、生ごみを分解する微生物も似たようなものが育ちますので、有用な微生物を育てる環境を維持したいなら、どのメーカーも似たような運転条件になると言えますし、逆に言えば、上に書いたような運転条件を外れてしまうと、生ごみ分解に有用な微生物を育てることはできなくなります。

各メーカーのスペックを比較されて、違いがどこにあるのか、検討されると良いと思います。